東京高等裁判所 昭和56年(う)1113号 判決
所論は、要するに、原判決は、被告人が大野仁と共謀のうえ原判示各窃盗を犯したものとして刑法六〇条を適用し共同正犯の成立を認めているが、被告人については実行共同正犯の面からしても、また共謀共同正犯の面からしても、共同正犯としての罪責は問い得ず、同法六二条にいわゆる従犯をもつて律すべきであるから、原判決はこの点で同法六〇条の解釈の適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
そこで、所論にかんがみ、まず、実行共同正犯の面から考察するのに、いわゆる実行共同正犯が成立するためには、主観的に共同して犯罪を実行する意思が、客観的には共同して犯罪を実行した事実がそれぞれ存することが必要であるが、共同実行の事実については、共同者のおのおのが犯罪の構成要件に該当する行為すなわち実行行為そのものか、これに密接かつ必要な行為を行うことを要し、かつ、それで足りるものと解すべきである。原判決の挙示する関係証拠によれば、本件においては、夜間大野仁が横浜市中区内にある被告人のアパートを訪ね、「行こうか。」などと声を掛けて窃盗に行くことを誘い、被告人においても大野が外車を窃盗することを熟知しながら、これに加担すれば金になることが分かつていたので、同人の誘いに応じ、駐車中の外車を物色しながら横浜市内や東京都内を走行徘徊する大野の運転する同人所有の普通乗用自動車に同乗したこと、大野が目的の外車を発見するや、そこから少し離れた場所に自車を停車させて同車内に被告人を待機させたうえ、自から現場に戻つて外車を窃取した後これを運転し、被告人は大野所有の右自動車を運転してこれを追従し、横浜市内等の隠し場所まで逃走して、窃取にかかる外車を駐車放置し、再び大野が自車を運転して被告人を前記アパートまで送つたこと、以上のような手口で本件各窃盗を繰り返したことが認められるところ、右事実に徴すれば、被告人には大野との間で本件各窃盗につき主観的な共同実行の意思の存することが明らかであるばかりでなく、前記手口の犯行形態にあつては、被告人の果した前示のような役割は右各窃盗の実行行為に密接かつ必要な行為に当たるものというべきであるから、被告人が本件各窃盗につき実行共同正犯の罪責を負わなければならないことは多言を要しない。そして、また、共謀共同正犯の面から検討しても、前記事実に徴すれば、所論引用にかかる各裁判例の判示する趣旨での共謀の存在が認められるから、いずれの観点からしても、被告人が本件各窃盗につき共同正犯としての責任を負わなければならないことは明白である。